こんなお悩みを解決します。
- 本記事の内容
・フランスに新卒採用がない話
・新卒でも実務経験が必要
・インターンシップのしくみ
・フランスでの若者のキャリア形成事情
- 本記事の信頼性
今回は、フランスの新卒採用についてお話します。フランスの若者のキャリア形成のしくみについてもご説明しますので、あなたが学生なら、少し先の将来についてイメージがわきやすくなると思います。
日本とはかなり事情が違うので、システムの違いや背景を理解しておかないと、就活中に無駄に傷ついたり落ち込んだりしてしまうことがあるかもしれません。事前に準備が出来ればチャンスも増えると思います。
ぜひこの記事を最後まで読んで役立てて下さいね。
新卒採用は存在しない
日本では、大学卒業後、仕事のことは何もわからないまっさらな状態で入社し、研修を受けて仕事を学ぶところから始まることが多いですよね。フランスでは、すぐに企業の即戦力になることを求められ、社員を育てるという概念はありません。
新卒一括採用制度が基本となっている日本では、新卒採用では専門の資格や職務経験はほとんど問われず、「ポテンシャル採用」などと言われたりするようですが、フランスでは、新卒であっても、即戦力として、「今すぐなにができるか」が問われます。
日本の新卒一括採用制度については学生側からの不満の声が多いようですが、フランス人の学生に説明したら「そんな夢のような制度があるの?」と驚いていました。実際、日本の若年失業率が他の国に比べて非常に低いのはこの制度のおかげであることは確かですよね。一方、フランスのシステムは、学生側から見ると「過酷」、経営者側から見ると「経済的」と言えるかもしれません。
新卒でも実務経験が必要
新卒採用もなく、即戦力になれなければ就職できないなんて、どうやって仕事を探すの?と思われますよね。フランス人学生の一番の不満は、「ポストに応募すると職歴を問われ、就職できなければ職歴は得られない、そんなの無理でしょ」ということです。ごもっともです。。。
フランスで卒業後に希望の職に就くには、在学中に出来るだけ自分の希望の仕事に近い職場でインターンシップ(Stage スタージュ)をして、仕事の経験を積むことが必須です。
インターン生(Stagiaire スタジエール)は日本の新卒生のように、いちから仕事を教えてもらえる場合も多いので、学生にとっては実地訓練の形で仕事を覚えられるチャンスです。企業側も即戦力を期待しているわけではないので、すぐに出来なくても仕方がない、という姿勢で受け入れてくれることが多いです。経営者側から見ると、インターン学生はうまくいけばコスパの良い労働力にもなり、税金対策になる場合もあるというメリットがあります。
インターンシップ(Stage, Alternance)のしくみ
日本では、会社見学のような数日のインターンシップが多いようですが、フランスのインターンシップは数か月単位で、見学ではなく実際に仕事をするものです。
インターンシップ(Stage)は、学校によって、必須単位としてプログラムに組み込まれている場合と、バカンス中や卒業後に希望者が自由にやる場合があります。学校での必須単位になっている場合にも、一学期間学校に行く代わりに毎日会社に通ってその後学校で履修を続ける、学校での履修を終えた後に一定期間でインターンシップをする、などの形があります。
私の場合は、学校(HEC経営大学院)のプログラムでは必須ではありませんでしたが、2年目でマーケティング専攻のゼミに入るためには、1年目と2年目の間の夏休み中に専門分野でのインターンシップをすることが条件になっていました。
また、「Alternance」という、週の半分ずつ学校と会社に通う、一週間ごとに学校と会社に行く、というプログラムの学校もあります。これは、3年間の学校なら、3年の間ずっと学校での座学と企業での実地訓練を平行して行う、という形のカリキュラムになっています。
このように、インターンシップは、学校のプログラムで必須になっているいないにかかわらず、現実的には、就職するための必須条件となっています。
注:「Stage」は一か所につき最大6ヶ月で「インターン契約」、「Alternance」は1年から3年で「雇用契約」となり、根拠となる法律が異なりますので、契約の際に注意が必要です。(参照:フランス政府ホームページ https://www.service-public.fr/particuliers/vosdroits/F16734)
フランスのキャリアパスのしくみ
日本の場合、新卒一括採用制度のもと、卒業前に正規の就職先を見つけようとするのが一般的だと思います。ただ、「新卒」のタイミングを逃してしまうと、「既卒」の立場で正規の仕事を見つけるのが難しく、その後も非正規から正規にキャリアチェンジをするのが非常に困難になってしまう、という問題があるかと思います。
一方で、フランスの場合は、卒業後すぐに正規の職に就くのは難しく、非正規(CDDなど期限付き雇用)の職を複数経験して職務経験を積み重ねたうえで、やっと正規(CDI 無期限雇用)にたどり着くのが一般的です。ただ、大多数の人が非正規からキャリアをスタートさせるので、非正規から正規へのキャリアチェンジは、日本よりずっと可能性が高いと言えます。
企業の立場から見ると、フランスの労働法においては労働者の権利が強く、一旦正規(CDI 無期限雇用)で雇用すると簡単には解雇できないため、インターンシップや非正規(CDDなど期限付き雇用)の形で、念には念を入れて候補者の能力や会社や同僚との相性などを確認した上でないと、正規(CDI 無期限雇用)に踏み切ることができない状況にあります。
(フランスの雇用形態については、「フランスの雇用形態」で解説します)
若者のキャリア形成
フランスでは、職務経験のない若者は、在学中に複数のインターンシップを経験し、卒業後にもインターンシップを続け、その後非正規(CDDなど期限付き雇用)の職を複数経験して、その後にやっと正規(CDI 無期限雇用)の職を得られるのが一般的です。大多数の新卒生(66%)が、非正規(CDDなど期限付き雇用)の仕事からキャリアをスタートさせ、卒業後3年くらいかけてやっと正規(CDI 無期限雇用)の仕事にたどり着ける(63%)、という状況になっています。
<フランスにおける若者の雇用形態:新卒時と3年後>
新卒時 | 3年後の雇用 | |
CDI(無期限雇用) | 30% | 63% |
CDD(期限付き雇用)、Interim(派遣)、など | 66% | 33% |
その他 | 4% | 4% |
計 | 100% | 100% |
(出典:Céreq, Enquête Génération 2004)
上手くいけば、インターンシップで能力を発揮することができ、タイミング良く空いているポストがあれば、その企業でそのまま採用される場合もあります。インターンシップのシステムが、学生にとっても企業にとっても、仕事や職場との相性を見極める「試用期間」として使われている面もあると言えます。
私の場合は、在学中にインターンシップをさせてもらった企業から、運良く卒業後の就職のオファーをもらうことが出来ましたが、こればかりは、タイミングと運によりますので、正規雇用にたどり着くまで根気強く職歴を重ねていくことが重要になります。
インターンシップも仕事の内容は企業によって様々で、雑用しかさせてもらえない場合も、ほとんど正規社員のような内容の濃い仕事をさせてもらえる場合もあります。なので、インターンシップを探す時点で、次のキャリアにつながる内容かどうかをよく確認する必要があります。
残念ながら、インターンシップ生を「安価な使い捨て人材」の様に悪用している企業もありますので、その企業での過去のインターンシップ生を探して話を聞かせてもらうなど、自分でチェックすることをお勧めします。
また、意外なところでは、産休中の社員の代わりの数か月間の非正規(CDDなど期限付き雇用)職が、若者にとってのチャンスになるという現象があります。フランスでは、産休中の社員を解雇することは禁じられていて、また、企業は産休後の社員に産休前と同等のポストを保証する義務があります。企業にとっては、数か月間ポストを空にするわけにもいかず、頭が痛いところなのですが、既に社内にいるインターンシップ生に、引き続き産休期間の代用ポストを提案することがあり、これは双方にとってメリットがあり、上手くいくケースが多いようです。
このように、フランスの若者のキャリア形成は、日本のように一本線ではなく複数の線が入り乱れるような形となっています。卒業後何年もかけて職歴を積み上げていかなければならない厳しさがある一方、一度選択を間違えても軌道修正できるチャンスがあるのは良い点だと思います。
自分で「コネ」を作る
「コネ」と言うと、「社長の息子がいきなり重要なポストに就く」というような状況を思い浮かべるかと思いますが、フランスでは、職場での上司や同僚との信頼関係も立派な「コネ」となります。インターンシップ中に新卒生なりの能力を発揮することが出来て、信頼関係を築くことが出来れば、同じ職場での採用につながることもありますし、同じ職場に空きポストがなくても、関連企業に紹介してもらえたり、Lettre de Recommandation(推薦状)を書いてもらえたりして、次のステップにつなげることが出来ます。
また、職場以外の知り合いを通じた「コネ」もあります。友達の友達、または、友達の両親や兄弟に、志望する業界で働いている人がいる場合、仕事を探していることを伝えておくと、どこかでポストが空きそう、というような情報を教えてもらえたりもします。
学校によっては、メンター制度を作っている場合もあります。メンターとなってくれる卒業生を見つけられたら、キャリア相談をしたり、業界のパーティーに連れて行ってもらって業界で働いている人達と会う機会を作ってもらったり、ということから知り合いを広げて行って、そのネットワークから、仕事を見つけられる場合もあります。
このように、「コネ」と言っても、親族の「コネ」だけではなく、信頼関係の「ネットワーク」が重要になるので、親族の「コネ」に頼れない日本人にも十分にチャンスはあると言えます。