こんなお悩みを解決します。
- 本記事の内容
・フランスの労働環境はパラダイス?
・大きく異なる2種類の雇用形態
・給与レベルも昇級スピードも大きく異なる
・「欧米型を取り入れる」の意味
- 本記事の信頼性
最近日本では、「仕事の効率化」や「ワークライフバランス」の観点から、海外での働き方に関心が高まっています。日本と対照的な例として、フランス人の働き方について質問されることが多いです。
ただ、社会構造の違いを知らないと、誤解が生じるので注意が必要です。フランスでの大きく異なる2種類の雇用形態について解説します。
フランスの労働環境はパラダイス?
日本での働き方に疑問を持つ人から、比較対象として、フランスの仕事環境について質問されることが多いです。
「フランスでは、残業なしで5時になったらすぐ帰れるってホント?」「フランスでは、新卒のエリートがいきなり年上社員の上司になるってホント?」
どちらも間違ってはいないのですが、指している対象が違うために、誤解を招くことが多いようです。
フランスの大きく異なる2種類の雇用形態
フランスの雇用形態は、「管理職(カードル)」と「非管理職(ノン・カードル)」で大きく2つに分かれているということが大きな特徴となっています。
どちらを指しているかで状況が全く異なるので、「フランスでは、、、」「欧米では、、、」という話を聞いた時には、どちらの話なのかを注意する必要があります。
Cadre カードル(管理職)
学歴の目安:基本的にBAC+5(修士号)以上 |
・いわゆるエリート層
・管理職・管理職候補(新卒でも幹部候補生としてCadreになり得る) ・規定労働時間は週35時間だが、成果主義の労働契約 |
Non-Cadre ノン・カードル(非管理職)
学歴の目安:主にBAC+3(修士号なし)以下 |
・スタッフ職で、決められた範囲の仕事をこなす
・勤続年数を重ねても、管理職になることはない ・基本的な労働時間は規定の週35時間で、それ以上働く場合は、残業代が出るか、休暇を取れる |
給与レベルも昇級スピードも大きく異なる
日本にも、管理職・非管理職の違いはありますが、「非管理職の従業員が職業経験を積んで管理職にステップアップする」というのが一般的なキャリアアップの仕方になっています。
フランスの場合は、非管理職の仕事に就いた後、勤続年数を重ねても管理職に変わることはほぼありません。例えば、経理専門学校や大学を出て、経理事務の仕事(非管理職)に就いた場合は、その分野の専門職として同じ仕事を定年まで続けます。残業もほとんどなく、時間的には比較的余裕がある反面、昇級や昇給は限られています。
一方、グランゼコールなどを卒業して、例えば経営管理などの「管理職」として就職した場合、新卒から管理職として部下を持つこともあります。成果を出すことが出来れば、その後の昇級・昇給スピードは「非管理職」よりずっと早くなります。
日本の人に理解されづらいのですが、「管理職(カードル)」と「それ以外の非管理職」の二つのキャリアトラックは、はっきり分かれていて、交わることはほぼありません。
給与レベルの差も大きく、フランスのカードルと中間従業員の給与は50歳代で約2倍まで差が出ています。日本の場合は、大卒と高卒の給与差は、最も差が出る50歳代でも25%の差にとどまっています (*1)。
このように、フランスでは、労働人口の2割弱(18.4%)の「管理職」(*2)と、労働人口の8割を占める「非管理職」は、契約形式・給与レベル・昇級スピードそれぞれにおいて、まったく違う2つの世界と言えるほど差があります。
出典:Insee 2014, DADS, Salaire brut en équivalent temps plein, par âge et catégorie socioprofessionnelle simplifiée
*1 : 厚生労働省 平成28年賃金構造基本統計調査
*2 : « Une photographie du marché du travail en 2018 »フランス国立統計経済研究所(Insee)https://www.insee.fr/fr/statistiques/3741241#tableau-Figure4
「欧米型を取り入れる」の意味
人事や雇用に関して「欧米型を取り入れる」という言い方をするとき、「管理職(カードル)」か「非管理職」のどちらを指しているのかが明確でないために、議論が成り立っていないのをよく目にします。
また、「欧米型」は、上記2つの異なる世界によって成り立っているために、「欧米型を取り入れる」とは、すなわち、格差を受け入れるということになります。フランスを含め、欧米各国が格差の是正に非常に苦労している現状を見ると、注意深く吟味する必要があると考えます。
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